明るく楽しい東宝映画映画漬け

『カモとねぎ』(1968)

1968年/宝塚映画/配給:東宝
監督:谷口千吉
脚本:松木ひろし、田波靖男
音楽:真鍋理一郎
出演:森雅之、緑魔子、高島忠夫、砂塚秀夫、桂米朝、藤村有弘、桜井浩子、山岡久乃、小沢昭一、東野英治郎

あらすじ:
 チョイ悪オヤジのリーダー・森雅之、関西弁のお調子者・高島忠夫、彼の相棒でオネエ・砂塚秀夫の詐欺師&泥棒トリオは、競艇場のボートに細工をし、素知らぬ顔で大穴300万円をゲット。ほくほく顔で金を持ち帰る途中、近くを通りがかった黒革のボディースーツ姿の緑魔子にデレデレしているうちに、まんまと300万円を奪われてしまう。こんな小娘にしてやられた野郎3人は大人気なく速攻で魔子が働くキャバレーを特定。さっそくとっちめにかかるが、「働いて返すから仲間に入れてほしい」と逆にお願いされ、オシャレな詐欺師グループに紅一点のメンバーが誕生する。あとのことは緑魔子の可愛さのせいで頭がボーっとしてしまいあまり憶えていないが、たしか、街の風紀委員長を気取るPTA会長・山岡久乃にピンク映画を見せて卒倒させたり、ベトナム戦争で米軍が使う兵器の原料を作って荒稼ぎ、その上公害で街を汚染し放題の工場を、不発弾発見の壮大なデマで混乱させたり、ルパン三世もびっくりの愉快な愉快な大冒険であります。

評:
 森雅之といえば黒澤明監督の『羅生門』や、成瀬巳喜男監督の『浮雲』など、日本映画の超名作に主演したイケメン男優だが、キャリアのピークを過ぎた60年代後半の出演作についてはそれほど知られていない。で、この映画の森雅之がどうなのかというと、これがもう「元イケメン」の雰囲気プンプンのチョイ悪オヤジになっておりまして、(市川崑監督のラブコメ『盗まれた恋』など例外はあるにしても)基本的に重厚なイメージなこの人の顔から繰り出される軽妙なセリフの数々は見ていて本当に愉快。同じ1968年=昭和43年制作の東宝オールスターホームコメディ『春らんまん』でもパイプ片手に余裕あるセカンドライフを満喫するチョイ悪オヤジを演じ、歳の離れた白川由美とセクシャルな関係を匂わせる超ダンディな役柄であった。

 話を『カモとねぎ』に戻すと、この映画は絶頂期に比べてすでにテンションが落ちはじめていた&時代にそぐわなくなりつつあった東宝カラー最後の輝き――都会的/オシャレでスマートなユーモア感覚が炸裂した傑作だと思えた。そしてそれはひとえに、東映からやってきた緑魔子の可愛さによるところが大きい(東宝専属のスター女優で同社のカラーを体現できる者がいなくなりつつあったのかも)。東映では育ちの悪い不良の役ばかりをやらされていた緑魔子が、東映作品ではなかなかお目にかかれなかったキュートな泥棒猫キャラ(その後の峰不二子みたいなのを想像していただければ)で、ゴージャスな10変化……秘書、軍服、下着、お風呂上がり……とにかく出て来るたびにキューティーハニーかというくらい服もヘアスタイルも化粧も変わる。ストーリーの展開上、彼女は挙句の果てに幽霊のフリまでさせられるのだが、このなんにでも変われるフットワークの軽さ、あらゆるベクトルでも可愛らしさを発散できるこの無敵さ、こんな女優ほかにちょっといないのではないか。

 もちろん、公害の町で病気の父を持つ娘を演じる桜井浩子(『ウルトラマン』のフジ隊員)も美しいが、決まりきった役柄に収まっているのでどうしても分が悪い。従来の東宝スター(森雅之、高島忠夫)、演技派のクセ者(小沢昭一、東野英治郎)を手玉にとる緑魔子が、どうあっても強い。松竹で『喜劇 女は男のふるさとヨ』、大映『盲獣』と東映を離れて他社で名演を残し続けたこの時期の緑魔子は、本当に神がかっている。

そしてこの映画はこんなに面白いのにビデオにもDVDにもなっていない。
なので、この時期の緑魔子のすごさががわかる出演作をいくつかDVDでどうぞ。

緑魔子が出演していた同時期の東宝作品でずっとソフトがされていなかった『死ぬにはまだ早い』は先日ついにDVD化。これは快挙。

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