サブスク捜索隊

Burt Bacharach『A Boy Called PO』(Original Sound Track)

 バート・バカラック御大が2017年に新作映画の音楽を担当し、サントラまでリリースしていたことを知り、驚いた。東京国際フォーラムのコンサートに行って、立ってピアノを弾く御大に促され、観客総立ち、全員で一緒に「雨にぬれても」を歌った素晴らしい思い出も今はもう昔。彼の年齢はついに90歳の大台に乗った。なんでも、飛行機の機上でこの映画の監督と偶然知り合った御大は、自閉症の少年を描いたこの映画のテーマに共感し、無償でスコアを提供することを約束したのだそう。もともと監督としては「遥かなる影」の使用許可をもらえさえすれば良かっただけだったところが、こりゃとんでもない棚ボタだ。

 基本的にはピアノやギターが主体の簡素なサウンドで、ピアノはご本人が弾いておられるのだろうか。根拠はないけど一部はそんなような気がする。これが巨匠のスケッチブックに描かれた水彩画というか、もちろん往年の豪華絢爛なサウンドとはまったく違うけれど、ピアノに重なるシンセストリングの入り方、絡み方には紛れもないバカラック節があって、それだけで非常に感動してしまった。

 ただ、いくら現役とはいえ非常に晩年感が漂うのもまた事実で、ぽつりぽつりとこぼれおちるようなピアノの音からは、昔はとても饒舌だったけど、流石に最近は口数が減ってきたおじいさん、という印象も。よく聴くと主体となるメロディは3、4パターンくらいしかないのも、個人的には強いメロディをしつこく反復してくるスタイルが昔と全然変わってないじゃんと思って喜んでいたけれど、人によっては寂しく感じるかもしれない。1分足らずで途中で終わってしまうような曲もあるし。肝心の映画『A Boy Called PO』が日本未公開なので、短いのは場面の尺に合わせているだけなのかもしれない。こんなに美しいメロディをまるで紙ヒコーキでも飛ばすかのようにフワッとお空に放ってしまうような、そういう贅沢さがある。

 主題歌はシェリル・クロウ(恥ずかしながらいまだに「トゥモロー・ネバー・ダイ」しか知らないのですが……)。これぞ2010年代のバカラックという感じで、この美しいメロディを新曲として聴けることの喜びは、ほかの何にも喩えがたい。長生きって本当に素晴らしい。

 CDはなく、配信のみのリリース。とりあえずApple MusicやSpotifyがあれば聴き放題です。ほかの作曲家の作品(ヒーリングミュージックっぽい)も入っているけど、これはバカラックが参加する前にすでに頼んでいた作曲家の楽曲なんじゃなかろうか。そりゃバカラック本人が音楽までやってくれるとは思わないですからね。

 そういえばシェリルとは、バカラック本人もガンガン参加するトリビュート番組をアルバム化した『One Amazing Night』でも競演していたから今回のコラボはその縁もあるのかも。ここで聴けるベン・フォールズ・ファイヴの「雨にぬれても」がすごくカッコよかったりするのですが、それもサブスクで聴けますから今後改めてご紹介します。実はこの映画も本国のAmazonで3ドルくらいでレンタル配信しているので、国の制限がかかっていなければ無字幕で見られそう。予告編を観た限りではかなり泣いてしまいそうだけれども。

 こちらの動画は2018年4月22日、カリフォルニア、ドルビーシアターで行われたイベントにて、シェリルと御大の競演する奇跡のライブ演奏。撮影してアップしてくれた人、本当にどうもありがとうございます。

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