ワーナーミュージックが2017年にリリースしたバート・バカラック作品集だが、いくら探してもCDが見つからない。おそらく配信限定のアルバムだろう。よく見たらジャケットもやっつけ仕事でひどいし、配信限定アルバムってそんなに予算がもらえないのか。せっかく名曲が揃っているというのにこんなパチモノみたいなジャケットではバカラックの名が泣く。
しかも、この手のコンピレーションはアーティスト名が「Various Artists」になってしまうため、検索で見つけることが非常に難しい。自分はたまたま曲名検索で見つけることができたが、もし、ヴァネッサ・ウィリアムスが歌う「One Less Bell to Answer(悲しみは鐘の音と共に)」に目を惹かれることがなければ、この盤にも永久に出会えなかった(シュワちゃん主演の『イレイザー』とかに出ていた女優さん、恥ずかしながら本業は歌手だと初めて知りました)。
ちなみに、USのApple Musicにあるものとは若干選曲が異なっている模様(同じ25曲入りで全体で1時間25分程度なのは同じ)。おそらく、曲によっては国ごとに著作権管理会社が違っていたりするせいだろう。https://music.apple.com/us/album/a-twist-of-bacharach/1225218677
US版だと冒頭の曲はヘレン・シャピロが歌う「Walk on by」。日本版ではアルマ・コーガンの「The Story of My Life」(バカラック+ハル・デイヴィッド作詞作曲コンビ初期の傑作。マーティー・ロビンスのバージョンが有名)と、その他、ちまちまと違いアリ(でも、どうせUS版は日本では聴けないので細かくは追いかけない)。
いろいろ文句を言ってみたが、やはり内容はすばらしい。ディオンヌ・ワーウィックの「The Windows of the World(世界の窓と窓)」や、ハーパース・ビザールの「Me, Japanese Boy」などといったバカラック好きにはおなじみの楽曲はもちろんだが、一通り有名な曲を知っているファンにとって楽しみなのは、本命バージョンを外した選曲にある。レコード会社の関係で有名曲の収録が難しかったとしても、バカラックほどの大作曲家ともなれば、誰かしら名のある人がカヴァー版の録音を残しているので、逆にいろいろと発見があるものだ。珍しいところを拾っていくと……
「Message to Michael」の「マイケル」を「マーサ」と女性の名前に変えてアダム・フェイスが歌う「A Message to Martha (Kentucky Bluebird)」、マット・モンローの「Raindrops Keep Fallin’ On My Head(雨にぬれても)」(初出が気になるけど不明)、ごきげんなインスト・カヴァー、ジョー・ロス楽団の「Do You Know The Way To San Jose(サン・ホセへの道)」、ヘレン・シャピロの「Baby It’s You」など、さっきのアルマ・コーガンといい、全体的にイギリスが多いかも?
シャドウズでも有名な「アパッチ」で知られるデンマークのギタリスト、ヨルゲン・イングマンの「This Guy」も珍しい。当然インストだが、メインの旋律が下手くそな口笛で奏でられ、歌はなくとも不器用な男感がよく出ていて癒される。
これまたイギリス勢、シャーリー・バッシーの「A House of Not a Home」はすでにユナイトレコード所属だった1968年になぜかEMIから出たアルバム『12 of Those Songs』より(日本ではこの曲含め、半分ほどの曲が東芝EMIから出たベスト盤に収録されている)。やたらと店内BGMでソフトロックがかかっている牛丼の松屋で知ったギャルズ&パルズはスウェーデンのコーラス・グループ。全曲バカラック楽曲でまとめたアルバム『Sing Something For Everyone』からの「素晴らしき恋人たち(Wives and Lovers)」はさすがにオシャレ。 比較的地味ながら貴重なのが「In The Land Of Make Believe」。ディオンヌやダスティ・スプリングフィールドも歌っているが、今回は初出のドリフターズ版で収録。ひねりだらけのメロディにもかかわらず、聴いた印象はエレガントで、バカラック節ここにあり、という感じ。
その他、おなじみの楽曲もいつもと違う歌手のバージョンで発見多し。スウィート・インスピレーションズは大仰なバラードとして歌われることが多い「Make It Easy on Yourself(涙でさようなら)」をしっとりとカヴァー。アルバムにもシングルのリストにも入っていなかったので不思議に思っていたら、どうやら近年まで未発表だった音源らしい。名曲「What the World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)」がこともあろうに奇怪な歌い方のウクレレ芸人 、タイニー・ティム版(3rdアルバムのラストに収録)なのも面白い。
終盤は冒頭のヴァネッサなど、さすがに近年のアーティストの楽曲が増えてくる。楽曲的に一番新しいのは、ダイアン・キートン主演の映画『赤ちゃんはトップレディがお好き』(原題:Baby Boom)の挿入歌で、当時のバカラック夫人・キャロル・ベイヤー・セイガーとの共作「Everchanging Times」。それでも1987年の映画なので日本で言えばまだ昭和。歌うはサイーダ・ギャレットで、マイケル・ジャクソンの代表曲「マン・イン・ザ・ミラー」の作者として知られている人(最近、BoAと「マン・イン・ザ・ミラー」をデュエットしたらしい)。 ラスト、バカラックと何度もコラボしている縁の人物、エルヴィス・コステロの「Plase Stay」は1995年リリースだが、楽曲自体は1961年にドリフターズの歌唱でヒットしたかなり古い楽曲。 コステロがマイナーな曲ばかりカヴァーしたアルバム『コジャック・バラエティ』からの音源で、録音から5年オクラになっていたという、 これはこれでちょっといわくのありそうなバージョンでした。