レコードinstagram

『Golden “R&B” Double De Luxe『ゴールデンR&Bダブル・デラックス』

『Golden “R&B” Double De Luxe』
『ゴールデンR&Bダブル・デラックス』
GW-7〜8
キングレコード/BLUESWAY/ABC

コンピレーション・アルバムが好きです。「Various Artists」というくらいなので雑多なアーティストの楽曲が1曲、あるいは数曲ずつテーマに沿って選曲されているという。日本語では「混載盤」なんていう言い方もありますね。ベストアルバム的に定番曲だけを集めた、お手軽だけど面白味に欠けるものも少なくないんですが、たかがコンピ、されどコンピ。アルバムが出ておらず、レアなシングル盤を買わないと聴けないアーティストの曲や、知名度の低いアーティストの曲を集めた、いわゆる落穂拾い的な盤もたくさんあってこれがバカにできません。

こちらはパラマウント映画の音楽部門であったABCレコード傘下のインパルス!タンジェリンブルースウェイなどのレーベルに所属していたソウル、ブルース系の楽曲を集めたもので、当時ABCレコードの販売権を持っていたキングレコードによる日本独自の編集盤。解説は安定と信頼の桜井ユタカさん。このアルバムの解説にある「ブルースとゴスペルという2つの黒人音楽を両親に持って誕生した、最もポピュラーな黒人音楽。それがリズム&ブルースでした」という明快な説明などはその際たるものですが、レコードのライナーノーツは音楽評論の教科書にしたい名文の宝庫であります。

この桜井さんの言葉の続きを補足すると「R&Bはその後、ロックンロールという大きな子どもを作ります」ということになるのでしょうか。この盤で聴けるアーティストで言えば、ジョン・リー・フッカーB・B・キングレイ・チャールズロイド・プライス…このあたりはビートルズ以下、多くのバンドのルーツになったレジェンド枠ですね。ロイド・プライスの「Just Because」はジョン・レノンが『ロックンロール』の締めで歌ったあの曲のカヴァー元ですし、ジョン・リー・フッカーの「Boom Boom」、B・B・キングの「See See Rider」はアニマルズのカヴァーでも知られています。この盤が「Money」で締め括られているのもそういう編集意図があってのことでしょう。

ジャズ系のシンガーがR&B寄りになっていくのもこの時代ならではですね。デラ・リース「I Got the Blues」、アソシエイションのカヴァー「かなわぬ恋(Never My Love)」どちらも最高です。インプレッションズはカーティス・メイフィールドが在籍していた黄金期で「We’re a Winner(我らは勝利者)」は「People Get Ready」の続編みたいな雰囲気でこちらも良い曲です。他にもレイ・チャールズのバックコーラス隊だったレイレッツの音源も入ってます。

個人的な目玉は、シュプリームスを脱退したフローレンス・バラードのソロシングル「It Doesn’t Matter How I Say It(あなたがいれば)」でした。脱退の経緯はシュプリームスとダイアナ・ロスを勝手にモデルにしたミュージカル『ドリームガールズ』でもドラマティックに描かれていたので知っている人も多いと思いますが、ソロではシングルを数枚出しただけでアルバムを作ることさえ叶わなかった彼女の歌を実際に聴いた人はどれだけいたか。『ドリームガールズ』では歌の上手い彼女がソロになって渾身のバラードをリリースしたけどシブすぎて泣かず飛ばず……というストーリーになっていましたが、この曲を聴いたらアップテンポでビックリ。シュプリームスのサウンドをより洗練させた傑作でした。同じ路線でぶつかりに行って見事な討ち死をされたわけで、不遇のまま亡くなったのが残念で仕方がありません。

もう1曲はタムズ「Be Young, Be Foolish, Be Happy」。アホみたいにポジティヴなタイトルからして最高なんですが、ちょっと調べたくらいでは情報が少なくてほとんど謎のまま。この盤を聴かなければ知ることもなかったでしょう。こんな感じでまったく見知らぬアーティストを不意に気に入ってしまった、という経験ができるのもコンピレーションの大きな魅力。オールナイトで仕方なく観た映画が拾い物だったとか、そういう反強制的な出会いも良いものです。

タイトルとURLをコピーしました