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KAWADE夢ムック 文藝別冊『総特集 GS! あらたなる旅立ち』

KAWADE夢ムック
文藝別冊『総特集 GS! あらたなる旅立ち』
河出書房新社
2002年

以前にKAWADE夢ムック「文藝別冊」シリーズから「ビーチ・ボーイズ」特集を紹介しましたが、先日GS特集の巻を見つけたので早速買って読みました。基本的には人物単体にスポットを当てるシリーズなので、GSという現象そのものがテーマになっているのはちょっと珍しいですね。他の巻だとジョン、ポール、ジョージ(リンゴだけ出てない)に黒澤明にウディ・アレン…図書館で借りて読んでというパターンばっかりでしたが、映画関係も音楽関係も、どれも濃密なものばかりです。

表紙で目を引くのはやはり阿久悠さんのお名前ですね。元スパイダースのドラマーで今や芸能界のドン的な感じで紹介されることも多い田邊昭知さんとの対談はまさにビッグ同士の組み合わせ。阿久さんが広告会社のコピーライターでTV番組の構成作家もやっていた時代に、デビュー直後のスパイダースに提供した詞と、モップスの「朝まで待てない」の詞で作詞家としてのキャリアを始めるまでの話を回想録として寄稿していて、こちらも読み応えがありました。というのも、阿久さんはこの5年後には亡くなられてしまうので、新しい話を本人の口からうかがうことはもうできず、お元気なタイミングでまとまった量の証言が読めたのはおそらくこれが最後だったかと思うのです。安岡力也さんもそうです。この本からすでに20年近く。2002年なんてつい最近だと思っていたんですが…。

そういう意味でもっとも貴重なのが草野昌一さんこと漣健児(さざなみ・けんじ)さんのエッセイです。昭和30年代中期から洋楽ポップスの日本語訳詞で一時代を築かれた方ですが、GSブームの頃はシンコー(新興)音楽出版の社長、そして音楽誌『ミュージック・ライフ』の編集長で、すでに“エラい大人“の立場だったからこそ見えるお話を書かれています。余談ながらこの世代の人にとっては、はっぴいえんどもGSということになるらしいです。なるほど…。

それからなんといっても作詞家の橋本淳さんのインタビューとエッセイですね。すぎやまこういちさんの使い走りからキャリアを始めて、やがて筒美京平さんという強力な相棒を得てから多くのGSにヒット曲をもたらした方ですけども、改めて見直されるべきその歌詞の文学性のバックグラウンドを知るにはもってこいの資料でした。

筒美さんといえばオックス「スワンの涙」であるとか、「さよならのあとで」「涙の糸」といったブルーコメッツの一連のムード歌謡路線の印象が強いためか、「本来ロックであったGSの音楽性を殺した犯人は筒美京平」という説がいまだに言われることがあります。この本でも湯川れい子さんの寄稿のなかで、ブルコメ井上大輔さんの晩年の談話としてこの説が紹介されていて、ちょっと切なくもなったのですが……でも、GSが歌謡曲化してしまうことはもう当時の日本のレコード業界のシステムに乗っかっている以上は避けられないというか、歌謡曲化しないとヒットしないんですよね。ヒットしなければ社会現象どころか人気にもならない。後世に残らないわけです。この時期にまったく売れなかったGSが現代になって「カルトGS」と呼ばれ異常な高値でレコードが取引されていますが、ブームにならなければこれらのグループはレコードさえ出せません。だからむしろ筒美さんによってGSは生かされたのである!、と私は強く主張していきたいです。

またまた熱くなってしまいました。この本は元々GSのメンバーだったミュージシャンが再結集して作られたアルバム『OJPC物語』(Oldies J-Pops Clubらしいです)のプロモーションの側面が強いんですが、このアルバムはサブスクで聴けます。前半は有名曲のセルフカヴァー、後半はなんと新曲という2枚組で、この手のGS再録音もののなかでは特に聴きごたえのある作品です。本の中でも語られているようにちゃんと音にお金がかかっていて、決して安っぽくありません。関係者の度重なる訃報によってGSの時代が一気に遠くなってしまった感のある2020年、そんな今だからこそ再注目されてほしいものです。

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