歌謡曲名盤サブスクで聴ける名盤ガイド

つなき&みどり『愛の挽歌 つなき&みどり ファースト・アルバム』1973年

つなき&みどり

「ブルー・シャトウ」などのヒット曲で知られるグループ・サウンズ「ジャッキー吉川&ブルー・コメッツ」でヴォーカルとギターを担当していた三原綱木(みはら・つなき)がグループを脱退した1972年、脱退と前後して結婚していた歌手・女優の田代みどりと夫婦デュオとしてデビューしたのが「つなき&みどり」である(1月に結婚、10月にグループを脱退)。

概要とメンバー紹介

 実は妻のほうが芸歴は長く、7歳の頃に大阪のジャズ喫茶で歌っていたという実力を平尾昌晃に認められ(彼も当時20歳そこそこであった)、1960年に12歳・小学6年生で少女歌手としてレコード・デビュー。「パイナップル・プリンセス」「ビキニ・スタイルのお嬢さん」といった洋楽の日本語カヴァー、いわゆる「カヴァー・ポップス」の歌い手として活躍していた。女優としては日活と契約し、吉永小百合らに代表される青春映画のスターとしても人気があった。浜田光夫と共演した『舞妓の上京』『白い雲と少女』などの主演作が簡単に観られない状況は非常に残念だが、吉永小百合との共演作はサユリストたちの根強い人気もあってDVDや配信で簡単に観られる。『青い山脈』では豪快なバンカラ高校生・高橋英樹の相手役、『風と樹と空と』では浜田光夫を頼って田舎から家出してくる妹役、『若草物語』ではお金持ちの青年・和田浩治の妹役と、脇役ではあるものの吉永小百合よりも少し幼い妹ポジションで魅力を振りまいている。いわゆるアイドルのハシリ的な存在だった頃の彼女が観たい方はぜひご覧いただきたい。

 さて、つい前置きが長くなってしまったがここからが本題。彼ら2人「つなき&みどり」は当時日本では珍しい夫婦デュオであり、「ソニー&シェール」や「アイク&ティナ・ターナー」、あるいは「スティーヴ・ローレンス&イーディー・ゴーメ」などといった洋楽系夫婦ユニットの日本版、という位置付けで考えるのが良さそうである。所属は設立まもない頃のバーニング・プロダクション。1970年代、大人にはムーディーでウェットな曲を、青少年・少女には明るく健康的なポップスを…という形でくっきりと住み分けがされていた昭和歌謡の世界はこの頃も絶え間ない変革を繰り返しており、そこに登場した「つなき&みどり」が提示したものは、演歌やムード歌謡とはまた違う方向性による大人向けの洗練されたポップス・サウンドだった。この時点では似ても似つかない音だが、こうした需要はやがてAOR(=Adult-Oriented Rock、大人向けのロック)として結実するものである。

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デビュー曲でヒットに「愛の挽歌」

 1972年の12月にリリースし、15万枚を売り上げたというデビュー・シングル「愛の挽歌」を聴いてみると、曲の舞台は演歌などでおなじみのバーやナイトクラブといった夜の盛り場ではあるものの、粋なピアノと迫力のあるブラスとストリングスが絡みつくサウンドから、かなり意識的にアダルト路線のポップスを目指していることがわかる。そして本物の夫婦に対して大衆から投げかけられるある種の下世話な興味さえも商売に盛り込んでしまうという、いかにも芸能界的な魅力に満ちた1曲でもあった。仕掛人は作詞の橋本淳、そして作曲の筒美京平。このヒット曲「愛の挽歌」をメインに据えて制作されたのが、いま配信で楽しめるこのファースト・アルバムである。レコードA面の6曲はすべて橋本=筒美のコンビによって書かれ、アレンジも筒美が兼任。B面の6曲は洋楽のカヴァーとなっている。

A面のその他の曲

 「ミュージック・イズ・マイ・ライフ」はシングル「愛の挽歌」のB面で、ソフトな曲調に耳を奪われていると、最後に彼らの自己紹介ソングであったことがわかる仕掛け。「フレンズ」「いつか何処かで」の2曲は「つなき&みどり」に先んじて橋本・筒美コンビがアダルト路線を盛り込んでいた平山三紀(みき)が先にシングルで発表していた楽曲。「フレンズ」が少しジャズ風味を増していたりするほかはそれほど大きな曲調の変化はないが、やはり男女デュエットで歌うことで生まれる不思議な調和は彼らにしか出せない味であり、どちらもオリジナルに負けない魅力を持っている。平山三紀のバージョンは2曲とも現在配信中の『平山三紀 ベスト・ヒット・アルバム』に収録されているので簡単に聴き比べができるが、できれば全曲を橋本が作詞し、筒美が作曲・編曲・プロデュースを手がけた1972年の『平山三紀セカンド・アルバム 希望の旅』が素晴らしい内容なので、ぜひCDかレコードで入手してほしい。

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 「ウエイト・アローン」は恋人と別れた女性がひとり旅をする情景を豊かに描いた隠れ名曲。サウンドはB面でカヴァーされているギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」を日本風にアレンジした雰囲気になっており、おそらくタイトルもそこが由来だろう。橋本と筒美の見事な連携ぶりがチラリと窺える。この曲はのちに4人時代のTHE  ALFEE(“ALFIE“と綴りが異なる)がビクターで発表したファースト・アルバムでカヴァーされてもいる。「泣き別れ」はソフトなカントリータッチの曲で、マヒナスターズなどのムード歌謡でお馴染みだったスティール・ギターの音をあくまでも洋楽モードで響かせているのがポイント。

B面は洋楽カヴァー

 常に激しい争いが繰り広げられている歌謡曲の世界では、人気が持続している間にアルバムも出してしまえ、とばかりに突貫工事で制作されることがよくあり、そういうときには洋楽カヴァーが埋め草的にしばしば収録される。彼らの場合、B面の6曲が洋楽カヴァーとなった。しかしド定番のオールディーズ・カヴァーはさすが2人ともお手の物で、英語の歌唱も安定感たっぷり。ひときわ目を引くシカゴのカヴァーや、少し後にヒットした映画『アメリカン・グラフィティ』にもつながってくるオールディーズ・リバイバルの余波を受けたと思しき選曲のバランスも1972〜73年の日本と洋楽の関わりを示したものになっており興味深い。先に触れた「アローン・アゲイン」については、同じく筒美のサウンド・プロデュースによる南沙織のファースト・アルバム『17歳』で表題曲のベースになったリン・アーンダーソンの「ローズ・ガーデン」のカヴァーが収録されているのと同じ「元ネタ披露」的な選曲で、なぜわざわざネタばらしのようなことをするのか現代ではちょっと理解しづらいが、これも大らかな時代ならではの余裕なのかもしれない。

 B面はアレンジャーのクレジットがないものの、全体的に力の入った演奏。「ハロー・メリー・ルー」で活躍するホンキートンク・ピアノの音色などを聴くと、やはりB面も筒美京平の編曲ではないかと夢想してしまうのだが、A面にはある編曲クレジットがB面ではわざわざ削られているので、ここは謎のままにしておきたい。

()内はオリジナル・アーティスト。
サタデー・イン・ザ・パーク(シカゴ)
パピー・ラヴ(ポール・アンカ)
アローン・アゲイン(ギルバート・オサリバン)
早く家に帰りたい(サイモンとガーファンクル)
ホワイ(フランキー・アヴァロン)
ハロー・メリー・ルー(リッキー・ネルソン)

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