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ゴールデン・ハーフ『ゴールデン・ハーフでーす』(1971)

ゴールデン・ハーフでーす

 昭和45年にデビューし、その時期を代表するお色気歌謡グループとして君臨したゴールデン・ハーフのアルバムを紹介したい。指している年は同じでも、「1970年」と「昭和45年」なら、やっぱり「昭和」を使いたい気分がある。

 さて、「その時期を代表する」もなにも、当時ほかに競合する存在はいたのだろうか?、なにせ女性アイドルグループという概念さえなかった時代である。同時期にはザ・ピーナッツじゅんとネネといった女性2人組ユニットはいたもののこれはアイドルとは呼べず、今に続くアイドルのフォーマットとして元祖となるキャンディーズの結成は1972年まで待たなければならない。1960年代の初めにベニ・シスターズという和製ガールポップ・グループがいたが、あまりにも知名度が低いのでこれは除外。お色気路線で言えば、大阪松竹歌劇団(OSK)出身のメンバーを含んだキューティーQがいる。しかしこれも知名度で言えばかなりマニアック。そうなると、由美かおるら西野バレエ団のメンバーで結成されたレ・ガールズあたりがお色気グループの先駆者、ということになるだろう。

 とにかくそんな黎明期の時代にお色気路線に振り切って人気を博したのがゴールデン・ハーフである。聴いていただければすぐわかるが、先に挙げた歌手やグループと違って、決して歌や踊りのプロフェッショナル……というわけではない、ゆるい雰囲気が大きな特色だ。現在でもいくつか活動している「グラビアアイドルやセクシー女優を集めて結成したグループの元祖」と言ったほうがいいのかもしれない。

 彼女たちの所属は渡辺プロダクション。『ドリフターズ大作戦』というTVバラエティがきっかけで結成されたもので、メンバー全員がハーフであるという売り込みであった。実はそのうちの1人は両親ともに日本人だったそうだが、今となっては気にすることではない。キリスト教伝来に黒船襲来、大昔から海外の文化や人物にとにかく弱い日本人のことである。欧米人の血をひく美しいお嬢さま方が健康的なエロスを振りまきながらポップスを歌う……そういうコンセプトのグループであった。

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お色気歌謡の後継者

 レコードデビュー時は5人組で(さらにその前は6人組だったらしい)、デビュー直後に石山エリが即脱退。世間的には、エバ(エバ・マリー)、マリア(森マリア)、ルナ(高村ルナ)、ユミ(小林ユミ)の4人がメンバーとして知られている。デビュー曲の「黄色いサクランボ」は、1959年にラテンと夜のムードが似合う3人組コーラス・グループスリー・キャッツ(日本コロムビア所属)が歌いヒットした曲のカヴァー。「うっふん……❤️」というセクシーな声が何度も挟まれるこの曲は星野哲郎の作詞、浜口庫之助の作曲で、お色気歌謡の先駆けとされる名曲だ。さらに3枚目のシングルでは、ハリー・ベラフォンテのカヴァーで「バナナ・ボート」を発表。日本では1957年に浜村美智子(ビクター所属)が歌った曲としても有名で、こちらもまたお色気歌謡クラシック。それまでの日本ではなかなか見られなかったエキゾチックな魅力が大きな人気を博していた。ゴールデン・ハーフはそれらを約10年後に70年代のスタイルでリメイクし、その跡継ぎとして大いに名乗りをあげたわけだ。

アルバムとサウンドについて

 というわけで、このファースト・アルバム『ゴールデン・ハーフでーす』。この脱力感満点なタイトルはどうだろう。よく見るとジャケットのロゴには「・」が抜けているし、当時のレコードの帯には『ゴールデン・ハーフでーす!』と逆に「!」がついていて実に適当。彼女たちもグループではあるがほとんどハモることもなく、ひたすらユニゾンで元気に歌っており、この良くも悪くも超いい加減なところが逆に癒しのように感じられてくる。ジャケットは左からマリア、エバ、ルナ、ユミで合っているだろうか(左2人が似ていて自信ないです…)。「黄色いサクランボ」以外はすべてオールディーズの名曲カヴァー。有名楽曲のオンパレードを川口真が編曲している。ドラムス:石川晶、ベース:江藤勲のコンビを中核とする「東芝レコーディング・オーケストラ」はドリフターズのバッキングと同じ布陣で、「ドリフのズンドコ節」「ドリフのほんとにほんとにご苦労さん」などと聴き比べてみるとそのサウンドの共通点はすぐにわかると思う。これはゴールデン・ハーフもドリフもレコーディングの担当ディレクターが草野浩二氏であったことからで、ご本人曰く、ミュージシャンその他の録音スタッフはほとんど同じ、とのこと。

その他の収録曲について

 「バケーション(ヴァケイション)」コニー・フランシスが歌ったヒットだが、日本ではなんといっても弘田三枝子(東芝所属)による日本語バージョンが圧倒的に有名。この時の漣健児(=草野昌一……ロックとポップスに特化した伝説の音楽雑誌『ミュージック・ライフ』の編集長で、新興音楽出版[シンコーミュージック]の社長、そして浩二氏の兄)による日本語詞でコニー本人も日本語で吹き込んでいる。「待ちどおしいのは秋休み!」とゴールデン・ハーフもこの歌詞で勢いよく歌う。

 「レモンのキッス」はフランク・シナトラの娘、ナンシー・シナトラの初期のヒット曲。この邦題は原題(Like I Do)とは関係なく、さらに「イチゴの片想い」(Tonight You Belong to Me)や「リンゴのためいき」(Think of Me)、「フルーツカラーのお月さま」(I See the Moon)など、彼女のヒット曲は日本で勝手に果物の名前を冠した邦題でリリースされ、果ては「フルーツ娘」というキャッチコピーまでつけられたという。これももちろんスリー・キャッツの「黄色いサクランボ」のヒットと無関係ではあるまい。果物の名前をタイトルにつけて女性歌手の色気を煽ったのだ。なんともいじらしい商魂といえばそうなのかもしれないが。日本ではみナみカズみ(=安井かずみ)の訳詞で森山加代子(東芝所属)やザ・ピーナッツ(キングレコード所属)が歌ったものが有名。ゴールデン・ハーフ版も同じ歌詞だ。

 「ベイビー・フェイス」は日本ではどうしても「空耳アワー」のEDテーマということになってしまうのだろうが、もともと日本ではブライアン・ハイランドのヒット曲として有名。ポール・マッカートニーも時々コンサートで披露しているので、若い60‘s洋楽ファンにも知られているかもしれない。レコードには漣健児の日本語詞とクレジットされているが、これは間違い。漣健児による歌詞では山下敬二郎(東芝所属)が歌っており、こちらは男性歌手が歌うために書かれていたもの。ゴールデン・ハーフが歌っているのは田代みどり(テイチク所属)が歌った歌詞を踏襲したもので、訳詞は新田則男。あれれ? 漢字は違うが、「赤鼻のトナカイ」を訳詞した新田宣夫と同一人物ではないか? ということは、これも漣健児こと草野昌一氏のお仕事である。

 「可愛いベイビー」もコニー・フランシスのヒットで、日本では中尾ミエ(ビクター所属)の日本語カヴァーが特に有名。下手をすると日本の曲だと思われているかもしれない(私がそうだった)。訳詞はこれも漣健児。先の「ヴァケイション」と並んで、日本人が日本語で洋楽ヒットを歌った「カヴァー・ポップス」の大傑作のひとつといえよう。ただ、ゴールデン・ハーフが歌うと赤ん坊をあやしているというよりも、赤ちゃんプレイに勤しむおじさんと戯れているように聴こえる

 「ガイ・イズ・ア・ガイ」は収録曲のなかでは比較的古い1952年の曲で、オールディーズより前の時代のスタンダード・ナンバーと言うべきもの。ドリス・デイの歌唱で知られるが、日本では江利チエミ(キング所属)のバージョンが有名で、この時の英語パートを交えた音羽たかし(キングレコードのディレクターによる共同のペンネーム)による歌詞でゴールデン・ハーフは歌っている。ハーフだけあって英語パートのほうが日本語よりも断然上手い。もっと英語でも歌ってほしかった。

 「ケ・セラ・セラ」は彼女たちの2枚目のシングルとしてリリースされたもので、「バナナ・ボート」と同じくなかにし礼が彼女たちのために日本語の歌詞を書き下ろしている。ところがこれが大問題作。ご存知オリジナルはドリス・デイによるもので、彼女が出演したアルフレッド・ヒッチコック監督の名作『知りすぎていた男』で誘拐された息子を想って彼女が泣きながら歌う名場面でも知られているのだが、ゴールデン・ハーフ版は、男性に迫られた女性が「ケ・セラ・セラ」と言ってなにもかもを許してしまいそう……という歌詞がつき、完全にお色気歌謡と化しているのだ。このギャップにはただ唖然とするばかりだが、それだけではない。この曲はビートルズのアップル・レコードから「悲しき天使」でデビューしたメリー・ホプキンのカヴァー版で当時リバイバル・ヒットしており、メリー版ではプロデューサーであるポール・マッカートニー原曲にない新しいパートを付け加えているのがポイントである。そのポールが補作した新たなメロディになかにし礼は、「女はいつも ムードに弱い ラララ〜」と堂々と歌詞をつけている。シングル盤では「ゴールデン・ハーフのケ・セラ・セラ」というタイトルになっており、つまり「これはゴールデン・ハーフの……なので元とは違う曲なんですよ」と言いたいのだろうが、あまりにも大胆。ポールが知ったら怒るだろうな。

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 「月影のナポリ」はイタリアン・ポップス。「砂に消えた涙」などで知られるミーナのヒット曲で、日本ではこれも森山加代子とザ・ピーナッツのバージョンが有名。訳詞は千家春(=岩谷時子)で、カヨちゃんとピーナッツにそれぞれ別々の歌詞を書いている。ゴールデン・ハーフはカヨちゃん版の歌詞を採用。クレジットも岩谷時子になっている。

 「カラーに口紅」は今回3度目の登場となるコニー・フランシスのヒット。日本語版の歌詞はみナみカズみで、これもカヨちゃんの持ち歌であった。その後、小泉今日子もカセット限定アルバム『SEPARATION KYOKO』で同じ歌詞で歌っている(現在は『ナツメロ』のボーナストラックに収録)。ここではかなりプロっぽい男性&女性コーラスが登場するが、クレジットが一切ない。前曲と続いて演奏もグルーヴ感多めで、ベースの暴れぶりにも注目してほしい。

 「悲しき16才」。これはキャシー・リンデンがオリジナルだが、元々B面の曲で日本での知名度は非常に低い。ここが日本のカヴァー・ポップスの面白いところで、この無名の曲をザ・ピーナッツに歌わせて、日本だけのヒット曲に仕立て上げたのだ。日本語詞は音羽たかし。ザ・ピーナッツはこの曲で紅白歌合戦にも出場した(ラジオの放送音源のみ現存)。ゴールデン・ハーフはちょっとウィスパーで歌っていて、これもまた良し。「ガイ・イズ・ア・ガイ」と同じパターンで英語パートが残っている。

 「ビキニスタイルのお嬢さん」。これは先ほどの「ベビー・フェイス」と並んでブライアン・ハイランドの代表曲として知られているもの。日本ではダニー飯田とパラダイス・キング石川進のリード・ヴォーカルにときどき坂本九のセリフが入るというもので、日本語詞は岩谷時子。パラキン版で九ちゃんが「ねぇみんな、何故だか教えてあげようか?」とセリフを入れる部分だけは原曲の英語のセリフに戻されている。言っているメンバーが誰だかわからないのだが、非常にキュート。

 「恋の片道切符」はご存知ニール・セダカのヒット(作詞・作曲はハンク・ハンタージャック・ケラーのコンビ)。オリジナル版も日本では相当流行し、平尾昌章(=平尾昌晃、キング所属)の日本語版も知名度が高い。最初は音羽たかしによる日本語詞で、後半を原曲の英語詞で歌うのも平尾版と同じ構成。キングレコード発のカヴァー・ポップスは英語と日本語の半々のパターンが多く、これはこの手の洋楽カヴァーの元祖と言える江利チエミ版「テネシー・ワルツ」のスタイルを踏襲しているのだろう。

おわりに

 現在、Huluなどの動画配信サイトで配信されている『8時だョ!全員集合』のもっとも古い回(1972年12月30日放送)はちょうどゴールデン・ハーフのゲスト出演回で、そこではユミが脱退し、エバ、マリア、ルナの3人になってしまったグループが「24,000回のキス」を歌う映像を見ることができる。『全員集合』では初期の回からレギュラーでアシスタントを担当。その役割はのちにキャンディーズに引き継がれることになるが、映像が残されていないのか、権利関係で問題があるのか、その活躍ぶりはほとんど見ることはできず、当時TVで見ていた人から証言を集めまくるより仕方がない。

 と、まぁこのような感じでほとんどオールディーズとカヴァー・ポップスの解説がメインになってしまったが、主に60年代を盛り上げた洋楽の原曲や、日本で流行したカヴァー・ポップスを知るきっかけになればと思う。このアルバムが、そのカヴァー・ポップスのブームを牽引していた東芝レコードによって過去の遺産を流用する形で構成された、企画的には大変イージーなものありながらも、その後本格的に到来するオールディーズ・リバイバルを鋭く予見した作品であることも忘れてはならない。配信されてはいないが、ゴールデン・ハーフのアルバムはその後、アストロノウツでおなじみの「太陽の彼方」をフィーチャーした『ゴールデン・ハーフ2』、ポール・アンカとニール・セダカの楽曲に特化した『アダムとイヴ』がリリースされた。いずれもお気楽に聴けるカヴァーが満載なので、こちらもぜひチェックしていただきたい。

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 余談だが、ドラマ『警部補 古畑任三郎』のなかで、田村正和演じる古畑が実はゴールデン・ハーフのファンクラブのメンバーで、彼のケータイから「黄色いサクランボ」の着メロが鳴る場面があり、たしか、部下の今泉(西村まさ彦)や桑原(伊藤俊人)と会員No.の若さを競い合うも場面あった。最初に私が彼女たちの存在を知ったのもこの時(小学生)で、どうやら現代と違って昭和という時代にはとんでもないお色気がお茶の間に溢れていたらしい……とただならぬオーラを感じたものである。

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↑『警部補 古畑任三郎』1st season 第11話「さよなら、DJ」(vs 桃井かおり)にてそのエピソードが出てきます。

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