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『にっぽんセクシー歌謡史』に編集協力しました。

『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』などでお世話になっている馬飼野元宏さんの待望の単著『にっぽんセクシー歌謡史』が刊行されました。真鍋は編集協力ということで『Radio Cafe Groovin’』https://www.facebook.com/cafegroovin/)のくろみくさんと、ラフに書き上がった原稿を順に読み続けるということをしていました。次々と面白い原稿が届くいっぽうで全体像はなかなか見えぬまま、最終的に600ページ近い超大作になりました。

馬飼野さんとは何度も一緒に編集の仕事をしてきたのでよくわかるんですが、インタビューをしたりとか、誰かが話した内容を一問一答ではない形の文章したりとか、実質的に一冊の本を丸ごと手がけていても、あくまでもこちらは編集者なので、本ができても自分名義にはなりません。それはたぶん作曲家(コンポーザー)と編曲家(アレンジャー)の関係にも似ていて、いくら編曲家が曲のイントロを考えたり、カッコいいサウンドを生み出しても、「オレの曲だ」ということにはならないのと同じです。 だからこの「単著」っていうのがすごく大事なんですね。

で、この本の核になる70年代の歌謡曲の話は、これまで馬飼野さんと一緒に仕事をしていくなかで何度も話題に出てきたことばかりなんです。山本リンダさんがグイグイとリスナーを挑発した一連のヒット曲は言うまでもなく、例えば山口百恵さんの「ひと夏の経験」であるとか、南沙織さんの「純潔」であるとか、いわゆる清純派アイドルの名曲にも、「え、このフレーズを歌手に歌わせるのってちょっとどうなんですか…?」的な瞬間がたくさんあります。それはいったいどういう意図でそうなってしまったのか? というのは当時の芸能界のムードと密接に関係していて、昭和という時代の背景なしには語れないものです。結局突き詰めていくと、あらゆることが日本社会の性質と合わせ鏡というか、立派な現代文化史になっているのがわかる。そのお話があまりにも体系的にまとまっているものだから、「絶対本に書いてまとめたほうがいいですよ!」と周囲の人たちと言い合っていたものが、構想◯十年という感じでついに形になった、そういう本なんです。

そういえば自分も思い出したことがあります。『ミュージックステーション』に「あぁ!」という当時のハロプロの最年少ユニット(平均年齢11歳)が出演したことがありました。のちのBerryz工房や°C-uteのメンバーがいたグループなんですが、まだ小学生の彼女たちにタモリさんが、「キミたちさぁ、それ、歌詞の意味わかって歌ってる???」とストレートに困惑していたのを見て、やっぱりそうだよなぁと。13歳のゴマキがその壁をぶち壊したアイドル低年齢化問題……実にゆゆしき事態ですなぁ!と当時小学生のくせに一丁前に腕を組んで考えていたことです。そのある種の違和感というものは、昭和から平成へ、歌謡曲の時代が終わり、ヒット曲が「J-POP」と呼ばれるようになっても変わらずに受け継がれてきたものでした。なんなら現在はメジャーから地下まで、この習慣は日本の全国各地に広がっているわけで、それも元を正せばこの本に書かれていることが前提にある、ということなのです。

たしか2年前の『Cafe Groovin’』の現場で馬飼野さんから「こういう本を書こうと思ってるんだけど…」と聞いて、その場でくろみくさんと「いいですよ〜」と気軽に引き受けてからなので、執筆だけですでに2年。その間、いつも話しているようなノリで「あれが抜けてますよ」「これはどこに入るんですか?」なんてただの校正のくせして偉そうに口出しをしながら断続的に読み続け、4月の『筒美京平の世界 in コンサート』の頃までほぼ出来上がった本をデータで3周くらい読んで、最後の修正のやりとりをやっておりました。

この大著のボリュームにふさわしいダイナミックなイラストを描いていただいたのは吉岡里奈さんです。消して美化することのできない昭和のドス黒いいかがわしさ……具体的に言うと東映や新東宝が作る映画のようなムードですね。自分が映画の本を編集していた時は実際の場面写真を掲載していたのでお仕事をお願いすることはなかったのですが、こうして1冊大きな作品が世に出たことは個人的にもとてもうれしい出来事でした。カバーを外しても楽しいこの本、ぜひ本屋さんで手に取っていただきたいと思います。発売から約1か月。Twitterで本の感想をつぶやいてくれる人はたいてい表紙のイラストの写真も一緒にアップしてくれる方が多いです。やっぱりこの絵を思わず広めたくなる、魔力のようななにかがあるんでしょうね。『Japanese Sexy Pops History』という英題も素敵です。

校正作業中、本の中に出てくる曲がつい聴きたくなり、サブスクで配信されている限りほぼすべての曲をプレイリストに入れて、個人的に聴いておりました。せっかくなので刊行と同時にこれを公開しようということになり、馬飼野さんに見てもらって多少削ったり加えたりした上、公式のお墨付きで公開いたしました。先日、都築響一さんのメールマガジン『ROADSIDERS’ weekly』https://roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=2039)でも著者インタビューとともにご紹介していただいたので、さらにリスナーが増えました。ありがとうございます。8時間超えの超濃密プレイリスト『にっぽんセクシー歌謡史~サウンドトラック』、どうぞお楽しみくださいませ。

定価は税込2200円。映画館へ行ってコーラを飲んでポップコーンを食べるよりは安いです。たぶん映画3本分くらいの情報量はある本だと思います。

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