リリース:1973年6月5日
レーベル:東芝/エキスプレス
Side A
1 僕の贈りもの
2 よみがえるひととき
3 彼のほほえみ
4 水曜日の午後
5 地球は狭くなりました
6 でももう花はいらない
Side B
7 歩こう
8 ほんの少しの間だけ
9 貼り忘れた写真
10 静かな昼下がり
11 さわやかな朝をむかえるために
『僕の贈りもの』は1973年にリリースされたオフコース(当時の表記は「オフ・コース」)のファースト・アルバム。グループの歴史は古く、1964年に横浜にある聖光学園に通う高校生たちによって結成され、ピーター・ポール&マリー、フォア・フレッシュメンなど、コーラスを主体とする楽曲のコピーを得意とするフォーク・グループを母体としていた。大学進学後も地元・横浜で地道に活動を続けたのちに、ヤマハが主催するアマチュア大会「ライト・ミュージック・コンテスト(LMC)」に出場。全国大会2位という好成績を収め、1970年にレコードデビューとなった。そこからさらに数年、本作のリリースへ至るまでには紆余曲折がある。アマチュア時代からレコードデビュー時まで3人組だったオフコースは、「群衆の中で/陽はまた昇る」「夜明けを告げに/美しい世界」「おさらば/悲しきあこがれ」と3枚のシングルをリリースするもいずれもヒットには至らず。当初所属していたヤマハとの関係やメンバーの加入・脱退など、なにかと周囲の状況に左右されることも多かった彼らは方針転換を余儀なくされ、本作制作の時点では小田和正と鈴木康博の2人組となっていた。この状況が多少好転したのが1973年ごろで、小田と鈴木は味の素マヨネーズのCMソングの録音に参加し、このCMソングで使われたコーラスをイントロに据えた「僕の贈りもの」が2人組としての再デビュー・シングルとしてリリースされた。自分たちで作詞・作曲をした楽曲がシングルのA面になったのはこの時が初めてで、初めてのアルバムを制作するにあたっては加藤和彦や東海林修らが提供した過去3枚のシングルからは1曲も収録せず、全曲が小田と鈴木による自作曲で構成される本当の意味でのオリジナル・アルバムとなった。
各曲はギターと鍵盤楽器を演奏する小田と鈴木に加え、ドラム:矢沢透(アリス)、ベース:重実博(のちに東芝EMIのディレクターとして稲垣潤一などを担当)の4人を基本のリズム・セクションとして録音された。「歩こう」には新六文銭からチト河内(ドラム)、柳田ヒロ(キーボード)が、「でももう花はいらない」には羽田健太郎(キーボード)が参加。青木望のアレンジによるストリングスとブラスが最後に仕上げとして加わっている。CMのタイアップがついていた「僕の贈りもの」は、録音とリリースが先行していた関係でメンバーが異なり、ドラムが高橋幸宏、ストリングス・アレンジは深町純。コーラスはすべて小田と鈴木の多重コーラスで、これが本作のサウンドの肝となっている。当時の帯に記載されたキャッチコピーは「日本のカーペンターズここに誕生!!」。ビーチ・ボーイズやアソシエイションといった、洋楽のなかでも現在ではソフトロックと呼ばれているポップスをお手本として、複雑なコーラスワークを構築してみせた。当時2人組だったオフコースのようなグループの場合、スタジオの経費や時間的な問題でベテランのスタジオ・ミュージシャンを起用する場合がほとんどだったが、同世代の若いメンバーを迎えて自らアレンジし、演奏していることも特筆に値する。当時、駆け出しのグループがファースト・アルバムでこうしたこだわりを貫き通せたことは非常に珍しい。リリース当時は小田と鈴木の2人だけでステージをこなしており、多重コーラスを主体とした本作の楽曲をステージで再現することはほぼ不可能。レコードの録音はあくまでも独立した作品として、より完成度の高いものを残そうとする彼らの姿勢はその後も変わることなく、やがて新しいメンバーを迎えることによってレコードの演奏を完全に再現するという夢は達成されることになる。
本作の収録曲はそれまでステージで演奏していた曲が中心になっているそうだが、数曲は新たに書き下ろされたものらしく、全面的にブラス・セクションがフィーチャーされ、ステージでの再現がもっとも困難な鈴木作曲の「歩こう」などは特にその傾向が強い。文語体の歌詞が異色な「ほんの少しの間だけ」は賛美歌のような楽曲で、ミッション・スクール出身である彼らの音楽的なバックグラウンドを伺わせる興味深い1曲。「さわやかな朝をむかえるために」の荘厳なアレンジと併せて、その後も何度か合唱曲のようなスタイルで作品を発表している小田の好みでもあるのだろう。小田のピアノと鈴木のアコースティック・ギターのアンサンブルという初期オフコースのサウンドにもっとも近いという意味では、「よみがえるひととき」も重要な楽曲。現在は音楽の教科書にも採り上げられた「僕の贈りもの」以外では、「でももう花はいらない」「水曜日の午後」「さわやかな朝を~」がその後のステージでも歌い続けられた。いずれもステージではフォーク・スタイルの簡素なアレンジになっており、本作でのアプローチは装飾過多とみなされたのかもしれないが、いずれにせよ小田と鈴木のこだわりが強く反映された本作は、彼らのディスコグラフィのなかでもひときわ大きな存在感を放っている。