リリース:1974年5月5日
レーベル:東芝/エキスプレス
Side A
1 プロローグ
2 すきま風
3 はたちの頃
4 日曜日のたいくつ
5 別れの情景(1)
6 別れの情景(2)〜もう歌は作れない
Side B
7 新しい門出
8 あの角をまがれば
9 若すぎて
10 のがすなチャンスを
11 首輪のない犬
12 わが友よ
2人組時代(小田和正&鈴木康博)のオフコース(当時の表記は「オフ・コース」)によるセカンド・アルバム。デビュー・アルバム『僕の贈りもの』がある程度のセールスを達成できたのか、割合とすんなり2枚目の制作に入ることができたようである。前作のリリースから5か月ほど経った1973年11月からレコーディングが始まり、当初は明けて1974年の2月のリリースを予定していたが作業は3月まで続き、録音開始から約半年後の5月のリリースに落ち着いた。詳細は不明だが、クレジットによると1973年7月の録音も含まれている。これだけ見ればレコーディングには前作よりも時間をかけているかのように思えるが、実際は日々のコンサートやラジオ出演、そして曲作りと並行して行っていたために中断期間が長く、前作よりもずっと短い時間で作られた。ちなみに当時の小田はまだ早稲田大学の大学院在学中。建築を学ぶ院生でもあった。
グループを続ける上での経済的な面では、すでにジローズの杉田二郎の事務所「サブミュージック・パブリッシャーズオフィス」所属のアーティストとして、杉田のアルバム制作、演奏活動のサポートのほかに、同時期の大滝詠一や山下達郎のようにコマーシャル・ソングへの参加が大きな実入りとなっていたようである。もっとも作曲・編曲も手掛けていた大滝や山下と違い、彼らの場合はコーラス要員としてのスタジオ・シンガー。歌に集中できる分だけかなりの数をこなしており、CMソングのコーラスは「BUZZ(バズ)か、オフコースか」と言われるほど手広くやっていたそう。実際、時折ネットにアップされる70年代中期のCM動画を見ると、明らかにオフコースと思われる歌声に遭遇することが多い。代表作としては「明治ブルガリアヨーグルト」(1975年頃)あたりか。グリコ「セシルチョコレート」のCMで山口百恵と共演しているものもある。もっともこれらは無論ノンクレジットの裏方仕事ではあるが、こうした状況はようやくグループとしてブレイクが見え始めた1977~78年ごろまで続いた。
今作では時間的な制約のために小田と鈴木はそれぞれが作曲、アレンジ、仕上げに至るまできっちり別々に作業をすることになった。そのため前作のように小田の楽曲を鈴木が唄ったり、逆に鈴木の楽曲を2人でデュエットするようなことはなく、作者自身がメイン・ヴォーカルをとることによって、小田と鈴木の個性の違いがハッキリと感じられる仕上がりとなっている。裏ジャケットは全収録曲の16チャンネルのトラックシートになっており、各チャンネルに録音された楽器と演奏者がすべて記録されている。特にヴォーカル・トラックの多さは録音過程のこだわりを物語るもので、ここでもまた彼らのオタクぶりがうかがえる。また、前作では青木望が担当していたストリングス・アレンジは今回から鈴木と小田が自ら手掛けるようになり、2人は書き上げたスコアを青木に目を通してもらってから録音に臨んだとのこと。
前作『僕の贈りもの』のソフトロック路線を継承しているのは「すきま風」くらいで、切迫した制作状況のためかメンバーが主体となって演奏している曲が少なく、サウンドは多少荒削りで勢いのあるものになっている。効率最優先のセッションのために集められたのは当時腕利きのスタジオ・ミュージシャンたち。やはり若手が中心である。赤い鳥に途中加入し、そして解散を前に相次いで脱退した大村憲司(ギター)・村上秀一(ドラム)の2人と、村上を追って上京した高水健司(ベース)が本作の半数以上の曲でサポートに入っている。このトリオは「エントランス」というグループ名で五輪真弓のバックバンドも務めており、その演奏は1974年の『冬ざれた街』でたっぷりと聴くことができる。「すきま風」は前作から続いての重実博(ベース)と高橋幸宏(ドラム)。「首輪のない犬」のみ小原礼(ベース)。「若すぎて」だけは少し年上のジャズ・ミュージシャンで、鈴木淳(ベース)、小津昌彦(ドラム)の2人が招集された。
当時、普段のステージでは相変わらず小田と鈴木のフォーク・デュオ・スタイルで活動しており、本作の収録曲もほとんどはステージで再現不可能。つつましく2人のギターとピアノで演奏するステージでの音源が残っている。やはり彼らにとってはレコードはレコードでステージとは別物。あくまでもレコード作りを活動の主体とするレコーディング・アーティストへの憧れは前作よりも強まっている。なにせ冒頭の「プロローグ」は小田&鈴木の多重コーラスだけで16チャンネルを埋めてしまうというもので、なんと全編アカペラ。ボイス・パーカッションまで登場する本格的なものとなると、ひょっとすると日本初のレコードかもしれない。
本作では鈴木と小田がそれぞれ違ったアプローチでソウル・ミュージックに迫っているのも聴きどころ。ダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイのようなパーカッションを多用したサウンドを目指した鈴木による「新しい門出」「のがすなチャンスを」。そして、A面を締めくくる小田の連作「別れの情景(1)」「別れの情景(2)〜もう歌は作れない」は、イントロのフランジャーのかかったストリングスのサウンドからしてスタイリスティックスの「You are Everything」を下敷きにしていることがわかる。いずれも大村、村上、高水のリズム・セクションがなければ生まれなかった名曲たちである。余談だが、アルバムに付けられたサブタイトルの『オフ・コース・ラウンド2』というのも、スタイリスティックスのセカンド・アルバム『Round 2』を想起されるものがある。鈴木がグループを脱退する1982年までステージで演奏され続けた「のがすなチャンスを」はこの盤が初出。その後、グループが5人組になってからレコード通りのハードなアレンジで演奏できるようになり、やがてさらにスケールアップしたアレンジでステージのクライマックスを飾ることになる。
その一方で「はたちの頃」「あの角をまがれば」など、当時の流行に合わせたフォーク調の作品もあり、早くも2人とも手堅い職人ぶりを見せてもいる。しかしこれらが全体の出来にうまく結びつかず混然としてしまっているあたり、 たしかに同時期に作られた超名盤たちと比べるとまとまりはあと一歩、ということになるが、この時点で提示された彼らなりの「ニューミュージックの玉手箱」が次作『ワインの匂い』に結実することを考えると、この盤の発展途上な面も楽しんで聴けるのではないだろうか。前作同様、2人が互いの個性を補完し合いながら作られた手作り感のあるアルバムである。