『チャイナ・シンドローム』
“The China Syndrome”
1979年/コロムビア・ピクチャーズ
A Michael Douglas / IPC Films Production
製作・出演:マイケル・ダグラス
監督・脚本:ジェームズ・ブリッジス/脚本:マイク・グレイ、T・S・クック
出演:ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン
あらすじ:
ニュース番組の人気キャスタージェーン・フォンダが、有能な報道カメラマンのマイケル・ダグラスと原子力発電所の取材へ。ガラス越しに原発の現場責任者ジャック・レモンの仕事ぶりを見学していたのだが、大汗かきまくり、慌てまくり、どう見ても暴走する原子炉を必死で止めてるようにしか見えなかった。あんまり様子がヤバいので、有能なマイケル・ダグラスはその現場の一部始終をこっそり隠し撮り。こりゃあ特ダネ決定だぜ……と思いきや、局のお偉いさんは渋い顔をして放送を許可してくれない。なんでだ? なにか弱みを握られているのか? おまけに原発側は事故などありませんでした、原発はいつでも安全です、などと言い張る。クソ、絶対に真実を明らかにしてやるぞ。圧力、陰謀、どんと来いだこの野郎。
評:
この映画を、3・11があったまさにその日の夜に見た。人類の歴史上まれにみる恐ろしい原発事故の様子を目の当たりにし、いま日本でいったいどれだけ恐ろしいことが起きているのか。これから先、どういう現実に直面しなければいけないのか。それを再確認しなければと思った。実際のところはわからないが、福島ではだいたいこの映画と似たような事態が発生したらしいことは理系じゃなくても理解できる。なんだか偉そうな人が不都合な事実をもみ消す気満々で記者会見に現れたりするところは完全にそのまんまだったわけだし。
この映画には原発の建設に反対する活動家や学者といった、反原発側の人間も登場する。この映画の場合は明らかに原発推進側に悪人がいるのだが、だからといって反原発側に肩入れするようなこともない。原発に反対する一般人たちは若干ヒステリックに描かれ、映画は彼らを非常に冷めた目線で見つめている。ちょっと冷たすぎなんじゃないのと思うかもしれないが、ジェーン・フォンダが演じる主人公はジャーナリストである。映画が政治的バランスに配慮した演出をしたことと、彼女が演じるキャスターが誠実な態度で報道の仕事に臨む姿勢とが重なり、それがかえって映画の印象を良くしている。この映画が作られてから40年が経つというのに、原発をめぐる人々のやり口はいまも変わらず、またそれに抵抗し、訴え続けることでしか事態は変わらない。SFじゃなくても未来を鋭く予知する映画はある。マイケル・ダグラスは本作のプロデューサーを兼ねており、ジェーン・フォンダは活動家でもある。人類が将来に抱えてしまった大きな問題を娯楽映画を通して訴えようという、彼ら自身の覚悟が必死に奔走するキャスターとカメラマンの姿に当然反映されており、そこにも強く胸を打たれるのである。権力と良心の板ばさみに遭い、苦悶の表情を浮かべるジャック・レモンの演技もまた然り。
ところで、スティーブン・ビショップが歌うオープニング・テーマ「Somewhere in Between」はフュージョン・メロウの大傑作。サントラレコードやシングル盤をずっと探していたのだが、90年代に入ってからのベスト・アルバムが初音盤化だったことが判明。つまりアナログ盤は存在しないという。とほほ。