Simon & Garfunkel『Recollections』
レコード番号不明(1970年代?)
CBM=Contra Band Music
アナログブート(海賊盤レコード)に手を出すようになってしまってから、もうだいぶ経ちます。最初は海賊盤のCDに比べて全然音は良くないし、自主プレスだから盤質も良くないし、お値段の相場もよくわからないし……なんて思っていました。でも、音楽好きとしては外せない未発表アルバムーー例えばビートルズの『ゲット・バック』であったりとか、ビーチ・ボーイズの『スマイル』であるとか、そういうのをレコード持ってみたくなり、試しに買ってみたら、思ったよりひどいものではありませんでした。未発表音源に限らず、1枚ずつ買っていたら破産するようなシングルの音源をまとめたお得な海賊盤もあります。現在のCDよりも何十年も前にプレスされている分だけレコードのほうが音に鮮度があるのでしょうか。確かにCDのほうが音は良いのかもしれないですが、CDは時間が経って劣化したテープの音をデジタルの技術で無理やり聴きやすくしたという感じも聴いていてわかるもので、多少音が悪いレコードでも耳にやさしく馴染むんですよね。もちろんあまりにも音が悪いレコードは買いません。想像を絶するひどい音質のレコードも多いです。
で、これは一体なんなのかというと、サイモンとガーファンクルが本名を名乗る前に、トムとジェリーという芸名でレコードを出していた時代のシングル音源をまとめた海賊盤です。一応盤を見ると、他にビートルズの海賊盤も出していた名門(?)レーベルのようなんですが、レコード番号もなければプレス時期も不明。discogsにも記録がない珍しい盤です。ジャケットのトムとジェリーが微妙に似てない上に体の大きさが変(本当はジェリーがもっと小さい)なのは残念ですが、ちゃんとチビのほうがギターを持ってる=ポール・サイモンなのは流石です。彼はこの頃ジェリー・ランディスという芸名でやっていましたから、本人的にもチビネタは公認だったのでしょう(売れない漫才コンビのような発想だ……)。
まあしかし、「ニューフォークの新鋭!」みたいな感じで初めて世に出たかと思われていた彼らが、実はその前にとっても古臭い、昔ながらのポップスをやっていたという。しかも自作で。そう思うと彼らのファースト・アルバム『水曜の朝、午前3時』のジャケットでいかにも「僕ら初めてレコード出してみました」という雰囲気をまとっていた彼らの見え方も変わってくるというものです。
当時小ヒットくらいはしたという「Hey Schoolgirl」(この軽いタイトルがいかにもポップス)をはじめ、このトムとジェリー時代もティーン版のエヴァリー・ブラザーズとでも言えばいいのか、これはこれで素晴らしいものです。ポール・サイモンもアート・ガーファンクルも、こだわりの強い表現者である一方で、世間に合わせて自分たちをマーケティングできる器用な人たちだったんですね。本当は。
あるアーティストがブレイクすると、契約が曖昧な無名時代に録音していた音源をどっかから買い集めてきて新しいアルバムを無許可で作ってしまうパターンがよくあって、このトムとジェリーの音源もいくつか海賊盤でなしにリリースされています(サブスクにもあり)。このレコードは権利を無視して収録できる海賊盤の利点(?)を活かして、サイモンとガーファンクルになってからのライブ音源も数曲入っていてちょっとお得。