サブスク捜索隊

The Brothers Four『A Beatles Songbook The Brothers Four Sing Lennon-McCartney』邦題:ブラザーズ・フォア『ビートルズを歌う』

モダン・フォークの大御所、ブラザーズ・フォアによるビートルズのカヴァー・アルバム。邦題はもちろん「ビートルズを歌う」だが、原題は「レノン-マッカートニーを歌う」。まだジョージが作家として見なされていないのが悲しい。というかむしろ当時20代そこそこのジョンとポールが大物作家コンビとして扱われていることがすごいわけで、1966年の時点にしてすでに名曲だらけの選曲。

ブラザーズ・フォアは「グリーンフィールズ」「七つの水仙」などの曲が有名で、キングストン・トリオなどと並んで爽やかなコーラスを売りにして1950年代末、ボブ・ディラン登場以前のアメリカのフォーク・シーンで王道を歩んでいたフォーク・グループ。なんといってもモダン・フォークは大学生の中でも特に優等生的な人たちが寄り集まって盛んになった音楽なので、ロックのように年長世代からの激しいバッシングを受けることなくヌルッと支持を集めました。順番としてはエルヴィスのようなやかましく、好ましからざる音楽に次いで現れ、不良たちのロックに対して、大人が安心して子どもたちに勧められる存在としてのモダン・フォークがありました。結局それもディランとビートルズの登場によって「若者の音楽」としての地位からたちまち引きずりおろされてしまったわけですが、そんな彼らがビートルズの曲をカヴァーしたらどうなるか、というところにこのアルバムの面白さがあります。

ちょうど前年のアルバム『ラバー・ソウル』でビートルズが少しアコースティックなサウンドに接近した時期だったので、そこから「ミッシェル」「ガール」「ひとりぼっちのあいつ」、ビートルズの曲が文句なく大人たちに認めさせることになった「イエスタデイ」あたりは妥当な選曲。そこに「アンド・アイ・ラヴ・ハー」や「イフ・アイ・フェル」、そして「アイル・フォロー・ザ・サン」を持ってくるあたりで、ビートルズ好きとしても「なかなかやるな」と思わせるところ。ビートルズが人気だからとりあえずカヴァーしようや、というのではなく、ちゃんとートルズとアコースティックの親和性の高いポイントを探ってみようという意志が感じられます。 モダン・フォークの本来の魅力は、「オール・マイ・ラヴィング」「ヘルプ!」「恋を抱きしめよう」のように、どうしても原曲通りに激しくやるわけにはいかないこれらの曲の料理の仕方で伝わってくるのではないでしょうか。ラストを飾る「ガール」は演奏主体で、オーケストラとアコギの絡みが気持ち良くておすすめ。ビートルズを直接聴いたら耳を壊してしまいそうなオジサマがたがこのレコードを聴きながら、「フフン……最近のガキどももなかなかいい曲を書くもんだなぁ」なんて唸ったりしている様子が想像できます。

ところで、ビーチ・ボーイズのコーラスのお手本にジャズ・コーラスのフォア・フレッシュメンがいるように、ビートルズにもコーラスのお手本となるグループがいたはずなんですが、これがどうにもこれといったものが見つからない。ミラクルズのカヴァー「You Really Got A Hold on Me」のようなソウル系の粘っこいコーラスはむしろ珍しいくらいで、かといってこのブラザーズ・フォアのようなモダン・フォークのお行儀の良さもない。さてこれはどういうことだろう……と書きながら考えていましたが、男の歌い手ばかりを考えていたのが盲点でした。たぶん、いわゆるガール・ポップのコーラスのノリをロックに持ち込んだのではないか?ということで一応の答えといたします。初期にシフォンズやクッキーズ、マーヴェレッツのカヴァーをしてましたし。そんなわけで、ビートルズとコーラスについて深く考えるきっかけをくれたブラザーズ・フォアのカヴァー・アルバムでした。

その後、ブラザーズ・フォアは1969年のアルバムで事もあろうに「レボリューション」をカヴァーしているのですが、政治的な運動や世代の中に身を置いていたジョンだから歌えた歌を、呑気すぎるアレンジで歌っていて、軽く怒りさえ湧いてくるほどです。そのアルバムについてはまた個別に紹介をするはずですのでまたいずれ。

タイトルとURLをコピーしました