サブスク捜索隊

The Chicks『The Sound Of The ‘Chicks’』(1965)

 Spotifyにレーベル検索という機能があって、「label:」をつけてレーベル名で検索すると、そのレーベルのアーティストがズラりと出てくる。似たような名前のレーベルのアルバムも結果に入ってしまうので、機能としてはちょっと不完全。ジャンル的にも興味がない自主レーベルのアルバムが大量に出てくるとキツい。そのへんのノイズを適当にやりすごしながら、面白そうな盤を探りあててみる。

 最近、ニュージーランドの首都ウェリントンにあるVikingというレーベルを知った。

Just a moment...

 ジャズ、クラシックからポップスまで全般的なラインナップ。ニュージーランドの先住民であるマオリ族の伝統音楽も数多くレコードにしており、こちらのほうが特色といえるかもしれない。1950年代後半から、80年代の終わりくらいまでのリリースが確認されている。discogsの情報によると、現在は小さな出版社になっているのだとか。おそらく過去の音源の管理だけをやっているのでしょう。

 そして今回紹介したいのはジュディ&スザンヌ・ドナルドソンの姉妹ユニット、The Chicks。歌はちょっと舌足らずなところがあって、人数の減ったシャングリラスといった印象がある。1965年のファースト・アルバムである『The Sound Of The ‘Chicks’』は2020年にSundazedから初CD化。アナログレコードでも再発された。なのでビート系ポップのマニアにはすでにその名は浸透しているかもしれない。本作は2トラック録音でモノラルミックスのみ。時おり男性コーラスの助けを借りながら、弾けたサウンドで楽しませてくれる。

リリース:1965年
レーベル:Viking

 収録曲の中ではチャビー・チェッカーで有名な「Hucklebuck」のカヴァーが特に人気が高い模様。チックスのバージョンではラジオDJ風の低い男声ヴォーカルとの煽り合いが随所に入っていて、これが最高にゴキゲン。ちなみにレーベルの作者クレジットではなぜか誤って「Tabacco Road」のジョン・D・ラウダーミルクとなっている。実際このLPには「Tabacco Road」のカヴァーも入っているので、それで間違えてしまったものと思われるが、この曲が入ったシングル盤でも同じミス。適当だなぁ……Sundazedからの再発ではさすがに修正されたようだが。

 ビートルズ・カヴァーは「Ticket to Ride」「I Feel Fine」、そして「I Don’t Want To Spoil The Party」。どれも原曲に忠実なアレンジだが、歌詞はしっかり女の子目線になっている。キャロル・キングとジェリー・ゴフィンのようなポップスのソングライターになりたかったというジョンとポールにとってはこういうカヴァーこそ作者的に本望だったのではないだろうか。特に「I Don’t Want To Spoil The Party」はそもそもカヴァーが少なく、ジョンとポールのハモリを16歳と14歳の姉妹が歌うとオリジナルとはまた違った曲の魅力が見えてくる。

 他のカヴァー曲では、フランキー・ライモンとザ・ティーンエイジャースの「I Want You To Be My Girl」をガールグループのエキサイターズが歌詞を変えてカヴァーした「I Want You to Be My Boy」、ジュエル・エイケンスの「The Birds And The Bees」、ハーマンズ・ハーミッツの「Can’t You Hear My Heart Beat」、バタフライズの「Goodnight Baby」(ジェフ・バリー&エリー・グリニッチ+スティーヴ・ヴェネット作)とまぁ選曲が渋い。モータウンのエレガントなサウンドをしっかり踏襲しているキム・ウェストンのカヴァー「Looking For The Right Guy」が特に出来がいい。

 「Heart Of Stone」は彼女たちのデビューシングルで、「Let’s Twist Again」と同じカル・マン(Kal Mann)、デイヴ・アペル(Dave Appell)の作。他に歌っている人がいなさそうだが、まさか書き下ろしではあるまい。音楽出版社に眠っていたストック曲だろう。「You Don’t Talk About Love」は同じVikingレーベルでダイナ・リー(Dinah Lee)のカヴァーらしい。この人も調べてみるとなかなか面白そうで、シラ・ブラックの「It’s for You」をオリジナルそっくりにカヴァーしている「ニュージーランドのシラ・ブラック」的なお方。

 とにかく楽しくて曲も短くてあっという間に聞き終わってしまう。このあとチックスは1970年までポリドールに移籍しながら4枚のアルバムを残すのだが、1965~70年という活動期間が示すように、ギラギラとファッションやサウンドを変えながらその時代でしかありえない楽曲を残している。どれもサブスクに入っており、興味深い内容になっているのでこちらも追って紹介したい。サブスクにはVikingからのものとSundazedの再発版の両方があるが、後者のほうがしっかりリマスターされている。

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