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『NOPE/ノープ』(2022)【映画のあらすじとレビュー】

『NOPE/ノープ』あらすじ

 ハリウッドで先祖代々、映画やCM撮影用に使う馬の飼育と調教をしているOJ(ダニエル・カルーヤ)は、口数は少ないが良い人である。良い人ゆえに、とにかく悩みが多かった。いい加減で軽薄極まりないなスタッフや、人の話を全然聞いていない高飛車なタレントにイラつかされるわ、優秀な父親(キース・デイヴィッド)と比べてお前はまだその域に達していない的なことまで言われるわ、仕事の手伝いをしてくれるはずの妹のエメラルド(キキ・パーマー)は歌って踊れてバイクにも乗れるマルチアーティストになりたいなどと言って現場で要らない自己PRをしまくるわで、近所で西部劇のテーマパークを開いている元子役の経営者(スティーヴン・ユァン)にせっかく育てた賢い馬たちを次々と売る羽目に。このままでは今まで続いてきた家業が潰れてしまう。おまけに、辛うじて残された馬も深夜に勝手に厩舎を抜け出して、なにかを恐れるように荒野を爆走するのであった。これ以上大事な商売道具がなくなっては本当に死活問題なので、OJが車で馬が走る先へ追いかけてみると……。翌日、たまたまOJたちが監視カメラを買いに来た電器屋に務めているオタクの兄ちゃん(ブランドン・ペレア)も馬の事が気になって、わざわざ大騒動に巻き込まれてしまうのだった。

『NOPE/ノープ』レビュー

 ユニークで面白いスリラー。全体的にコケ脅しも多くてイライラさせられるが、この手の映画にありがちな、解釈を観客に放りなげる消化不良なことはせずにキッチリとカタをつけてくれるので、観終わったあとは満足感があるし、楽しい。

 ただ、冒頭からちょっと嫌な予感はしていた。本題には関係ないこととはいえ、あそこの字幕のフォントがあの映画のそれみたいとか、これはSFに見せかけた西部劇の復権だとか、映画オタクが思わず人に話したくなるようなマニアックな語り白を、まるで調教師が動物をエサでも釣るように監督がディテールを仕込んでしまうのはどうにかならないものか。たとえば、主人公が住んでる部屋の壁に『砦の29人(Duel at Diablo)』(1966)のポスターが貼ってあると、それだけで立派に意味を持ってしまうので、こういう小道具はあくまでも登場人物の背景の説明に徹したほうがいいんじゃないかと。このあたりは作り手と観客、映画オタク同士の永久機関という感じでとても不健全な気がする。

 考察など要らない。怖いものは怖い。それだけです。

『NOPE/ノープ』追記

 ずいぶん前から映画館で予告編を観ていたので、結局いつになったら公開されるのか待ちくたびれてしまった。その予告編も多くは語らない感じで、とにかく謎だらけで焦らされた。そしてようやく公開されてその全貌が判明した次第。エンドクレジットを見ていたら、電通がけっこうメインで出資していたらしく、それで日本での宣伝が長期間でしかも規模も大きかったのかなと考えてみたり。

 それから、なんのネタバレにもならないので書くが、深夜にエメラルドがディオンヌ・ワーウィック「Walk on By」のレコードをかける場面がある。そうか。彼女はディオンヌのようなポピュラリティのある歌手になりたいのか、とちゃんとわかる細かい演出。映画のなかに好きなレコードが出てくると、やっぱりうれしくなってしまう。

映画『NOPE/ノープ』の真鍋新一さんの感想・レビュー | Filmarks
真鍋新一による、「NOPE/ノープ(2022年製作の映画)」ついての感想・レビューです。

 そしてこれは『動く馬(The Horse in Motion)』(1878)。走る馬の様子を撮影した連続写真で、リュミエール兄弟の『工場の出口(Workers Leaving the Lumière Factory)』(1895)を別にすれば、これが「最初の映画」だと言われているらしい。今回の『NOPE/ノープ』では7つほど別バージョンのある『動く馬』から、『Sallie Gardner at a Gallop』というタイトルのものが使用されている。別に難しいことを考えなくてもいいような映画のなかについつい「映画史のお勉強」的な設定を入れてしまうところがいかにも映画オタクっぽい。ちなみに劇中ではこの馬に乗っている黒人騎手がOJ一家の先祖である、ということになっているが、もちろんこれは架空の設定。実際はGilbert Dommという騎手の名前と生没年(1844–1912)は判明しているが、それ以外のことはよくわかっていない。よくわかっていないから、こうして上手に映画のなかの設定として取り入れることで、それらしいリアリティが出てくるわけですね。

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