The Beatles『No.3 ABBEY ROAD NW3』
1979年頃
オリジナルはAudifön Records
『No.3 ABBEY ROAD NW3』
Side A
1 Golden Slumbers/Carry That Weight
2 Her Majesty
3 You Never Give Me Your Money
4 Octopus’s Garden
5 Maxwell’s Silver Hammer
6 Oh! Darling
7 Something
Side B
1 How Do You Do
2 Blackbird
3 The Unicorn
4 Lalena
5 Heather
6 Mr. Wind
7 The Walrus And The Carpenter
8 Land Of Gisch
名盤のアウトテイクを集めた海賊盤も、また名盤なり。『No.3 ABBEY ROAD NW3』は、『アビイ・ロード』収録曲の完成直前の音源をレコード化したという、アナログレコードの時代においては相当に画期的だったレコードである。Audifön Records(他にエルヴィス・プレスリーなどの海賊盤もリリースしている)からリリースされたオリジナル盤を買おうとすると、正規にリリースされたレコードのオリジナル盤を買うのと同じくらいの値段が掛かってしまうため、これは1000円程度で入手したコピー盤。あまり見たことのないジャケットで(discogsでの掲載もなし)、真っ白いジャケットにただ紙が1枚入っているだけ。おそらくコピーのコピーのそのまたコピーだろう。
音はそれほど悪くないが、レコードから直接コピーしたと思しきノイズが入っている。人気のある海賊盤とはそういうもので、ビートルズの場合は内容さえ良ければ海賊盤といえどもガンガン売れてしまうので、とにかくいろんな業者が参入してはせっせと紛いものを作っていた(そもそもが非合法なレコードなのに)。オリジナル盤のジャケットは、『アビイ・ロード』のジャケット撮影時の一枚で、4人がスタジオの階段で休憩している写真。
A面は『アビイ・ロード』のアウトテイク。リンゴのヴォーカルがダブルトラックになっている「Octopus‘s Garden」、曲が終わってからも延々とピアノを中心とする演奏がダラダラと3分以上続く「Something」、完成版だとフェイドアウトしてしまうところがそのまま続き、途中から即興のロックンロール・セッションになってしまう「You Never Give Me Your Money」、ポールのピアノ弾き語りだけのシンプルな「Golden Slumbers / Carry That Weight」、ドラムから始まるイントロが入っている「Maxwell‘s Silver Hammer」、そして最後まで音が途切れない「Her Majesty」と、ファン初心者でも耳を奪われる貴重な音源が収録されている。B面は、ポールがプロデュースしていたメリー・ホプキンのアルバム『ポストカード』の録音中に、楽曲提供をしたドノヴァンとポール、そしてメリーが談笑しながら互いの曲を歌うというゆるいセッション音源。ポールがかわいい娘に向けて歌った「Heather」(2001年に発表された曲とは別。リンダの娘とポールの後妻は同じ名前であった)など、この時ポールが歌った曲はすでに世に出ていた「Blackbird」を除けばきちんとした形で録音された曲はなく、それはおそらくその場で即興で作った曲ばかりだからだと思われる。それにしてもキャッチーな曲ばかりで、普段は作り込むタイプのポールの一筆書きのすごさはその後の初ソロアルバム『マッカートニー』で証明されたとおり。
マニアが海賊盤が重要視するのはあくまでも中身の音であって、本来であればアルバムタイトルなどはどうでも良いはずなのだが、この盤に関してはこの作品は『No.3 ABBEY ROAD NW3』というタイトルで、かつジャケット写真が『アビイ・ロード』のフォトセッションのアウトテイク……つまり、同じタイトル、内容でジャケットの違うものが何種類も出ている。『GET BACK』や『SESSIONS』などのように正規に出るはずだった未発表アルバムというわけでもないのに、なぜか? それはやはり、名盤の裏側を収めたドキュメントがすばらしい音質、内容で海賊盤の黎明期に突如として現れたという事実が、マニアの間で『No.3 ABBEY ROAD NW3』というタイトルとともに大きな価値として定着していた、ということに他ならない。
ちなみに、2019年に満を持してリリースされた『アビイ・ロード』の50周年記念盤には初めて公式発表されるアウトテイクが多数収録されたが、全テイクの録音の様子が丸ごと公開された「Her Majesty」以外、この海賊盤に収録されたものと同じ音源は収録されなかった。50周年記念盤を買うようなマニアならたいていこの海賊盤の音源も耳にしているであろう、という配慮でそうなったのだろうか。それとも単に、完成の一歩手前の別テイクを聴いても違いは少ないので聴いても面白くないだろう、という親切心か。いずれにせよ、「You Never Give Me Your Money」のフルエンディング・バージョンはもっと良い音質で聴いてみたかったところではある。