The Beatles『Broadcasts』【解説】

　ビートルズが1963年～65年までBBCラジオの番組に出演した際のスタジオ・ライヴ音源をまとめた海賊盤レコード。

　これらのいわゆる「BBC音源」は1970年代にビートルズの海賊盤が出回り始めた初期の段階では「スタジオアウトテイク」とされていた。実際はラジオ出演時の演奏だったわけだが、総じて音は遠く、受信時の雑音がガサガサと盛大に入っているものも多くとても聴けたものではなかったため、もはやそれがどこから来た音源であったかなど確かめる段階になかったのだろう。本放送当時にはAM放送を良好に受信でき、かつ家庭用の録音機材を持っている人は珍しく、ひどいものではスピーカーから出た音にマイクを近づけて録音したとしか思えない音源さえも海賊盤になっていた（それでも当時のマニアは必死に聴いて楽しんでいた）。

　そんな状況を一気に打破した画期的なタイトルがこの『Broadcasts』だった。とにかく80年代の海賊盤にしてはとにかく音質が良い。公式盤『Live at the BBC』がようやくリリースされたのは1994年になってからだということを考えると、1980年代の初頭にこれほど良好な音源が入手できていたという意味で『Broadcasts』は快挙であり、今でもマニアの間ではちょっとした伝説になっている。

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　BBC音源はもともとラジオ番組であるため、イントロやアウトロに司会者のナレーションがかぶさってしまうことが多い。『Broadcasts』ではそういった部分が目立たないようにカットしているか、あるいはMCがまったくかぶらない音源が選ばれており、そんな丁寧な仕事ぶりも評価が高い。公式盤『Live at the BBC』とその第2弾『On Air』のリリースによって主だったBBC音源は商品化されてしまったため、あえて80年代の海賊盤レコードをわざわざ買うのは酔狂な趣味なのかもしれない。公式盤は商品としてきちんとしたものを世に出さなければならないので、演奏の出来不出来よりも、音質の良いものが優先して収録される場合があり、さらにノイズを軽減する処理によって全体的にぼやけた音質になってもいる。どうやらそこに海賊盤が存在する余地が発生しているようで、改めてこの盤を公式盤のCDに慣れた耳で聴くと、意外とエッジの効いた音質の生々しさ、演奏の荒々しさに驚かされる。

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　本作のリリース直後の1982年、BBCは『The Beatles at the BEEB』という特別番組で当時の音源を初めて再放送した。ようやく自分たちが所有している音源の価値に気がついたのも、先にこうした海賊盤の盛り上がりがあったからかもしれない。結局はこの放送を録音したテープも利用され、本作に追随するようにたくさんのBBC関係の海賊盤が出ることになった。

　BBC音源ではCD10何枚分の音源があり、また同じ曲を何度も演奏したりするため、「何年何月の何の番組で演奏したこの曲がすばらしい！」と言えるレベルまでに聴き込むのはなかなか大変だが、この盤に収録された楽曲の放送番組と収録＆オンエア日を海外のネットの力を借りてリストアップしてみた。今のところ公式にリリースされていないのは、童謡の「Pop Goes The Weasel」をアレンジしたインスト『Pop Go The Beatles』のテーマを含む、★印のついた冒頭の２曲のみ。こうして見ると1963年と64年で明らかに演奏のテンションが変わっていることがわかる。言うまでもなく1964年のビートルズはとんでもない年。やんちゃづくしの63年に比べて64年はずいぶんと落ち着いていた。

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