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『ミュージック・マガジン3月増刊号 筒美京平の記憶』に編集協力、コラム執筆など

 先日の10月7日がご命日だったとのことで、「もうご覧になりましたか?」という念押しで、こちらのほうではきちんと告知ができていなかった『ミュージック・マガジン3月増刊号 筒美京平の記憶』について、Instagramにアップした記事を手直しして投稿しておきます(インスタの投稿だとどうやらGoogleの検索に引っかからないようですし……)。

 こちらは作曲家・筒美京平さんについて、歌謡曲の制作現場とその工程(作曲、デモテープ作り、曲選び、作詞、編曲、演奏、歌入れ、ミックス、そしてプロモーション)について、あらゆる関係者に根掘り葉掘りインタビューで聞いてみた、という本です。今年2022年の3月14日に発売になりました。

 刊行後、たちまち売り切れになった『ミュージック・マガジン 2020年12月号』の特集をベースに、馬飼野元宏さんが監修になって新規インタビューと新規コラムを大量に追加した増刊号です。真鍋は馬飼野さんと誰に話を聞くかのリストアップをしたり、レコードジャケットの提供などなど、取材や原稿の執筆以外にもいつもの調子で編集協力をしています。この本が出たあとすぐに、平山みきさんがインタビューのなかで語っていた未発表曲が「Jazz伯母さん/ラスト・ラブ・ソング」としてリリースされるなど、今年に入ってからもまだまだ動きがあるので、微力ながらその都度盛り上げていきたいと思っています。

 真鍋の担当原稿として、歌謡曲の作曲家である筒美さんとニューミュージックのコラボについてのコラムが書けたのがうれしかったです。畑違いの若いアーティストへも積極的に曲を提供してたくさんのコラボ作品を残していた京平さん。シティ・ポップだけを専門に聴いている人でも、しばらくすると必ずどこかでぶつかるのが「作曲:筒美京平」のクレジットでした。そして気がついたころには、すっかり歌謡曲の沼に引きづり込まれてしまう。自分がたどった道を結果的に振り返ることになりました。

 インタビューでは、11月にニューアルバムをリリースされる矢野誠さんへの取材を担当しました。矢野顕子さんやあがた森魚さんのプロデューサーとして有名ですが、実は南沙織さんのアルバム曲でもアレンジャーとしてクレジットされていて、京平さんとの接点はどこにあったのだろうと、個人的に気になっていたことでした。これもまた歌謡曲とニューミュージックをつなぐひとつの大きなポイント。本当はもっともっとお伺いしたいことがたくさんありましたが、グッとこらえて矢野さんの歌謡曲ワークスについてと、京平さんとの出会いについてのお話を中心に、貴重な証言をいただきました。ありがとうございます。

 そんなわけでとてもマニアックな本です。読んでみても書いてあることがわからない!……かも。でもそこは気にすることないと思います。マニアの人でも初めて知るようなことがたくさん出てくるはずなので、そういう意味ではみんなおんなじ。音楽への興味さえあればきっと面白く読めるはずですし、いろんな視点で音楽を楽しむためのヒントがたくさん散らばってます。好きなとこから読んでみてください。自分も仕上げ作業の最中に誤字脱字、事実関係の違いがないか、目を皿のようにして読みまくったのに、思い出したようにまた読んでいます。

 日本の歌謡曲において、作曲家はもちろんプロデューサー、ディレクター、アレンジャーや録音エンジニアといった裏方さんたちの名前は一部のマニアにしか知られておらず、レコードを楽しむうえで、愛好家の間でもそういうマニアックな会話はなかなかしづらいところがあるのが悲しい現状です。しかし、これをビートルズで考えてみるとどうでしょう? こういう本を作る重要性がわかると思います。今はもうかなわないことだけど、プロデューサーのジョージ・マーティン、エンジニアのノーマン・スミスジェフ・エメリックに、ビートルズについての話を聞いてみる(実際すでにそういう本はある)。それからマネージャーのブライアン・エプスタインに、ローディーのマル・エヴァンスニール・アスピノール、音楽出版のディック・ジェームスに、妹分的な存在のシラ・ブラックに当たってみてもいいかもしれない。スタジオで見習いをやっていたクリス・トーマスや、ポールのプロデュースで「悲しき天使」を歌ったメリー・ホプキン、「愛なき世界」を書き下ろしてもらったピーター&ゴードンのピーターは今もお元気ですね。数年前、ファンクラブの会長でエプスタインの秘書をやっていたフリーダ・ケリーの証言だけで『愛しのフリーダ』という素晴らしいドキュメンタリー映画が出来上がったりもしました。

 長々とビートルズの話をしちゃいましたが要するに、一緒に仕事をした人たちに話を聞いてみると、本人に直接聞くよりも生々しい話が出てきたりするってことです。それを筒美京平さんでやったのが、この本。しかも、京平さんは生前にはほとんど取材を受けず、ごく一部の親しい関係者以外に創作の秘密を明かすことはありませんでした。そこにこの本の意義というか価値があります。貴重なエピソードがさまざまな視点から、これだけのボリュームで読める機会はもしかして初めてのことじゃないでしょうか。

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